「日常生活動作」は移動や排泄、食事、入浴など、日常生活で必ず行う基本的な動作のこと。「Activities(動作)of Daily Living(日常生活)」の頭文字をとり、「ADL」ともいわれます。介護においては、高齢者がどの程度自立した生活ができるかを知るための指標として使われています。
介護の基本用語のひとつですが、「基本的日常生活動作(BADL)」と表現されることもあります。また似ていますが違う意味合いを持つ「手段的日常生活動作(IADL)」という言葉もあり、少し混乱しやすいかもしれません。
自立した生活を目指している高齢者にとっては、どれもとても大切な指標です。それぞれの意味を取り違えることのないよう、しっかり理解しておきましょう。
日常生活動作=ADLとは
日常生活動作(ADL)は、日常生活でしている基本的な動作のことで、「基本的ADL(Basic ADL=BADL)」と呼ぶこともあります。介護においては高齢者の生活機能をはかる尺度として用いられており、以下のような項目で評価していきます。
・移動
・歩行
・整容(身だしなみ)
・着替え
・食事
・トイレ動作
・排尿・排便コントロール
・入浴
・階段の上り下り
ただしこれらはあくまで基本の動作で、それさえできれば支障なく日常生活が送れるというわけではありません。たとえば食事ひとつとっても、「食べ物を口に運んで飲み込む」以外に、何を食べるか考えて調理したり、できた料理を配膳したり、洗い物をして食器を片付けるといった多くの作業が必要です。
つまり実際に日常生活を送るためには、ひとつの行為にセットになっている前後の流れも含め、自分でできるかどうかが重要になってきます。そこで日常生活動作を実際の生活に落とし込んだ状態で、どれくらいできるかを計るための指標として使われているのが「手段的ADL(instrumental activities of dairy living scale」=IADL)」です。
◆手段的日常生活動作=手段的ADL(IADL)
基本的ADLよりも複雑で、意思決定も求められる日常生活動作。たとえば食事の準備や買い物、掃除や洗濯、電車やバス等交通機関を使っての外出、服薬管理、財産管理、電話対応や趣味活動など。
手段的ADL(IADL)は、判断力が求められたり段取りを考える力が必要だったりと、基本的ADLよりもハードルの高い動作です。たとえば買物であれば、「何を買うか、どこに買物に行くかを決める+家の戸締まり+移動+金銭管理+買うものを選ぶ+店スタッフとのコミュニケーション+移動+帰宅+買ってきたものを仕分けして収納する」など、多くの動作・判断が複雑に組み合わさっています。
ただ、どれも自立した生活に欠かせない点は基本的ADLと同じ。基本的ADLが問題なくできても、手段的ADL(IADL)ができなければ、本当に自立した生活ができるとはいえません。その方の生活の質を下げないためには、基本的ADLだけでなく、手段的ADL(IADL)にも着目していくことが大切です。
できるADL、しているADL
さらにADLは、普段からしている「しているADL」と、訓練時や診察時などにだけできる「できるADL」の2つに分けることができます。
「できるADL」は医師やリハビリ専門職員の前でやるとできるのですが、実際に自宅で生活するうえではできないのが特徴です。このような差が生まれる原因は、自宅と訓練室や診察室との環境の差などが関係していると言われています。
この差が大きい人に関して「できるADL」だけをみていると、「この人は自立度が高いから大丈夫」と評価をしてしまいがち。しかし自宅で実際にやってみるとできないことが多いので、事故につながりやすくなってしまいます。
また、実際にはできるのに、過剰な介護をしてしまっているために普段できていないADLもあります。この状態が続くと、できていたはずのこともできなくなりかねません。その人に残された力を発揮してもらうためにも、「できるADL」をできるだけ正確に把握して普段からやってもらい、「しているADL」へと育てていくことが大切です。
「できるADL」と「しているADL」は似ているようで違うもの。違いをしっかり理解して、日頃のケアに役立てていきましょう。
食事と運動でADL低下を予防しよう
高齢者のADL低下は、加齢や病気の影響でおこります。年をとるにつれて運動量や食べる量が減ると、筋肉が痩せ衰えて骨がもろくなったり、関節も動かさないと動きにくくなってしまい、今までできたことができなくなってくるのです。そのほか認知症やうつ病、パーキンソン病などの疾患もADL低下の一因。
病気が原因の場合はそれに合わせた治療や対応が必要になりますが、加齢が原因の場合はふだんの生活習慣、とくに「運動」と「食事」に目を向けていくことが大切です。
閉じこもりや栄養不足は、ADLを低下させてしまう大きな要因。趣味やボランティア活動、買物や家事など、機会を見つけてはこまめに体を動かすことと、栄養バランスのとれた食事をしっかり摂ることが、ADL低下の予防になります。
人と会ってコミュニケーションをとったり、積極的に社会に参加していくことは、うつ病や認知症の予防にも役立つので一石二鳥です。
ADLを改善する訓練とは
低下してしまったADLを改善したり、現状より悪くならないよう維持するために行われているのが、日常生活動作(ADL)訓練です。訓練では一つひとつのADLについて、動作を細分化して練習していきます。たとえば排泄なら、「トイレまで移動する練習」「ズボンを上げ下ろしする練習」「便座に腰掛ける練習」「お尻を拭く練習」といった具合。
リハビリ施設で専門職の指導を受けながら「できる」ようになったら、次は「している」ADL/IADLを目指します。「狭いところで方向転換する」「しゃがんだ状態で引き出しを開ける」など、自宅の環境を想定して実用的な訓練をしていきます。
また訓練以外にもADLの改善に役立つのが環境作り。体の状態に合わせて道具を利用したり、自宅の照明を明るくする、手すりを設置するなど、安全に動くことができる環境に整えていくことも大いに有効です。
認知症でも中等度以上になると、着替えや入浴など身の回りのことができなくなり、ADLが低下します。できないことや失敗が増えてきますが、これをとがめたり責めたりすると、よけいに症状が悪化してしまうことがあります。
認知症の人は、若い頃の記憶や体で覚えた手続き記憶は残っていることが多いので、それらをうまく引き出せるよう工夫しつつ、リラックスして過ごしてもらうことも大切です。
こちらのコラムも参考に≫「認知症ケアの実践。ベースとなる4つの基本視点とは」
ADLは生活を営むうえでの基本動作
日常生活動作は、生活する上で必ず行う基本的な動作のことでした。ただ呼び方がいくつかあって混乱しやすいため、最後にまとめて確認しておきましょう。
日常生活動作 = ADL = 基本的日常生活動作 = 基本的ADL = BADL
これに対し、外出や家事などの高次な動作は「手段的日常生活動作=IADL」と呼んで区別しています。IADLのほうがBADLより先にできなくなることが多いため、できないIADLが出てきたら要注意。生活を見直して、ADLの維持・改善に努めていきましょう。
できることが増えれば、本人も自己肯定感が高まり生きる意欲がわいてきますし、介護する人にとっても、精神的・肉体的にずいぶん楽になります。できないことがあっても諦めることなく、小さな「できる」の芽を見つけ、「しているADL・IADL」へと大きく育てていきましょう。