認知症の介護には、病気のことを正しく知ることはもちろん、認知症ケアの専門技法やチームケアの方法等を詳しく学ぶことが役立ちます。
これらを効率良く学ぶには、資格取得を目標に学習したり、研修に参加するのがおすすめ。今回は公的・民間合わせて11の資格・研修をご紹介しますので、それぞれの特徴や取得方法、かかる費用についてもぜひチェックしてみてくださいね。
認知症ケア資格「公」と「民」の違い
公的資格
官庁や大臣が認定する資格で、国家資格と民間資格の中間にあたります。有資格者の配置義務や介護報酬の加算があるなど介護制度に組み込まれているため、職場での評価に確実につながる資格。将来的に認知症介護のリーダーとして現場で活躍したいなど、介護職としてのキャリアアップを目指す人におすすめです。
民間資格
法律などの後ろ盾はありませんが、その分さまざまな団体がカリキュラム内容に工夫を凝らし資格を運営しています。それぞれ個性があるので事前に内容を調べておくことは必須ですが、自分の興味や学びたい分野に合致していれば、チャレンジする価値は十分あるといえます。
キャリアアップを目指す公的資格4つ
1.「認知症介護基礎研修」
資格を持っていない新任介護職向けの研修で、認知症介護に最低限必要な知識や技術を習得できます。2021年4月から、無資格の介護職はこの研修を受けることが義務化(経過措置期間:2023年まで)されました。
研修の形式やかかる費用は実施する自治体によって違いがありますが、eラーニングも取り入れられており、費用も無料~5,000円程度と負担にならない価格。研修は半日程度で、難しい修了試験もありません。
比較的すぐに修了できる研修ですが、初任者研修を受講すれば免除になり、より高い評価も得られるので、そちらもぜひ検討してみてくださいね。
2.「認知症介護実践者研修」
介護の実務経験を2年程度積んだ介護職向けの研修で、基礎研修よりも専門性の高い内容となっています。カリキュラムや日程は都道府県によって異なりますが、1週間程度の講習・演習のほかに、自分が勤めている事業所で4週間程度の実習を行うケースが主流。
費用は無料の都道府県もありますが、だいたい2~3万円+テキスト代程度のところが多いようです。
3.「認知症介護実践リーダー研修」
認知症介護の指導や、チームケアの推進を担える人材を育てる研修です。受講の対象者は、おおむね5年以上の実務経験があり、実践者研修を修了して1年以上経過していて、チームリーダーになる予定がある人。
5日間程度の講義・講習を終えたあと、自施設での実習が4週間程度、最後に1日、実習の報告や評価を行い修了となるカリキュラムが多いようです。かかる費用は都道府県により無料~6万円程度とばらつきがあります。
4.「認知症介護指導者養成研修」
認知症介護各研修を企画したり、講師として指導ができる人材を育成する研修。この研修を修了すれば、認知症ケアの地域推進役としても活躍できるようになります。
研修の対象となるには、まず認知症介護実践リーダー研修を修了していることが必要。さらに介護福祉士などの国家資格※を持っていること、相当の介護経験があること、認知症介護各研修に講師として従事することが予定されていること等が必要です。
研修は300時間以上、約9週間。センターでの講義・演習・実習に加え、4週間程度の自施設の実習もあります。さらに修了考査に合格すると、認知症介護指導者の誕生です。
かかる費用は23万円の受講費のほか、教材費や保健の費用、宿泊費なども必要になります。ハードルは高いですが、認知症介護指導者が所属する事業所には「認知症専門ケア加算」が算定されるため、職場でのニーズも高い資格といえます。
※医師、保健師、助産師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士のうちいずれか
専門性を追求する民間資格4つ
1.「認知症ケア専門士」
「認知症ケア専門士」は、いくつかある認知症ケアの民間資格のなかで最もメジャーといえる資格です。有資格者は28,699人(2021年11月時点)※、例年合格率はおおよそ55%前後で、難易度はやや高め。5年ごとの更新制になっており、取得後も知識を更新できるのが特徴です。
民間資格ではありますが介護業界での評価は高く、認知症ケアに力を入れている施設では資格手当がつくことも。介護職としてキャリアアップを考えている人にはおすすめの資格です。受験資格は3年以上の認知症ケアの実務経験があること。
かかる費用は、1次試験:12,000円、2次試験:8,000円の受験料のほか、受験の手引き(願書):1,000円や受験地までの移動費などをみておきましょう。上級資格として「認知症ケア上級専門士」、初級資格として「認知症ケア准専門士」もあります。
2.「認知症ケア指導管理士」
初級と上級があり、初級は誰でも受けることが可能。また上級も初級を取得してから1年経てば受験することができます。累計合格者数は19,283名(2019年12月まで)で、合格率は59%※。更新制でないことからも「認知症ケア専門士」に比べ難易度は若干低めです。
初級の受験料は一般:7,500円、学生は4,000円。そのほかに公式テキスト代として2,200円、合格後に認定登録料として2,000円が必要となります。認定団体は「一般財団法人職業技能振興会」および「総合ケア推進協議会」。
≫認知症ケア指導管理士(初級)認定試験 (資格取得キャリアカレッジHP)
3.「認知症ライフパートナー」
認知症ライフパートナーは一般社団法人日本認知症コミュニケーション協議会が認定する民間資格で、3級、2級、1級があります。音楽や運動、園芸や調理などのアクティビティを用いた認知症ケアについて学びを深められるのが特徴。
3級と2級は誰でも受けることができ、1級についても2級に合格していれば受験可能なので、介護の職歴がない方や、介護職を志すわけではない方にも広く門戸が開かれています。2021年冬の試験では、3級の合格率が71.3%、2級が54.9%、1級が27.6%※となっており、1級以外であれば難易度は中程度。
かかる費用は3級では受験料:6,000円、公式テキスト:3,080円。2級では受験料:9,800円、公式テキスト:4,950円となっています。
≫認知症ライフパートナー検定概要(一般社団法人 日本認知症コミュニケーション協議会HP)
4.「認知症介助士」
認知症の方への基本的な対応方が学べる民間資格。おもに認知症の家族がいたり、認知症のお客様と接する機会がある一般の人に向けた資格で、受験資格もありません。合格率も9割以上と難易度は低く、認知症について基礎的な知識を学びたい人におすすめです。受験料は3,300円、公認テキストは3,300円。
認知症ケア技法を深掘りする研修3つ
1.「パーソン・センタード・ケア及び認知症ケアマッピング(DCM)法」研修
認知症ケアの技法のひとつである「パーソン・センタード・ケア」を学びたい方に。基礎コース(受講料80,000円)と上級コース(受講料120,000円)があり、それぞれ3日間(オンライン研修では4日間)で学ぶことができます。
基礎コースは認知症ケアに熱意を持つ人なら誰でも受講が可能。基礎コースを修了し最終日の試験に合格すると、「DCM基礎ユーザー」資格が取得でき、自施設で認知症ケアマッピング(DCM)を行えるようになります。上級コースは基礎コースを修了しており、一定のDCM実践経験を持つ人が対象です。
2.バリデーションが学べる研修
バリデーションとは、認知症高齢者と心を通わせるために考え出されたアメリカ発の認知症ケア法です。認知症の人とのコミュニケーション法や、介護する側のセルフケアについても学ぶことができます。セミナーや勉強会、トレーニングコースなどが不定期に開催されていますので、興味のある方はぜひFacebookをチェックしてみてください。
3.ユマニチュードが学べる研修
ユマニチュードはフランス発の認知症ケア技法で、認知症の人との間に「絆」を結ぶ方法を学ぶことができます。ただし現在ユマニチュード研修は、日本の研修事業を受託していた会社の契約終了に伴い一時休止中。
後を受け継いだ一般社団法人日本ユマニチュード学会が、新たな研修内容・体系を検討しています。詳しい予定が決まれば下記のホームページでお知らせされますので、ぜひ時々チェックしてみてくださいね。
≫「ユマニチュード研修」一般社団法人 日本ユマニチュード学会HP
自分に合った資格を選ぼう!
認知症ケアについて学べる資格・研修について、全体像をつかんでいただけたでしょうか?キャリアアップをねらうなら公的資格やメジャーな民間資格をおさえていきたいところですが、興味のある分野を深掘りしたい方、介護職になるわけではない方ならそれ以外の資格もオススメです。ご自分のニーズに合わせて、ぜひ前向きに検討してみてくださいね。