介護施設の管理者にとって、人材育成は最も重要な仕事のひとつです。
つねに均質なサービスを提供しご利用者様に安心いただけるよう、スタッフ一人ひとりの「できていること」「できていないこと」を見極めて、適切な指導と成長をサポートできる教育体制を整えていかなればなりません。
しかし、介護職員が身に付けていくべき技術・知識は、幅広く多岐にわたるため、一言に評価、指導するといってもなかなか難しいもの。
「本当に正しい指導になっているだろうか?」「頑張っているのに、なかなか人が育たない」など、頭を悩ませている管理者も多いのではないでしょうか。
平成24年度にスタートした「キャリア段位制度」は、介護職員が「実際にその現場で何ができるのか」を“見える化”し、個々の職業能力を客観的に評価することで適切な教育と本人のモチベーションアップにつなげていく制度です。
レベル1から7までの明確な基準に基づき、介護職員の技術評価を行うのがアセッサー(評価者)です。
そして、アセッサーを輩出するための「アセッサー講習」での学びを通して、管理者として大切な視点や知識を習得することもできるようになります。
今回は、管理者としてのさらなるスキルアップにもつながるアセッサー講習について、内容や受講方法などをご紹介します。
介護キャリア段位制度におけるアセッサーの役割
そもそも、「キャリア段位制度」とは、2010年に国が提唱した国家戦略プロジェクト「実践キャリア・アップ戦略」のひとつであり、これまで企業や事業所ごとにバラバラだった評価基準に「共通のものさし」をつくることで、キャリアアップの道筋を構築し、働き手の新規参入や人材育成を促していこうというもの。
なかでも対象業種「介護プロフェッショナル」については、既存の国家資格制度や研修制度との関係も考慮しながら実践的スキルについて重点的に評価する内容になっており、待遇面の改善や仕事の質の向上、働き手のモチベーションアップにつながっています。
「キャリア段位制度」におけるアセッサーの役割は、評価基準に照らして評価される側の介護職員を客観的かつ公正に評価すること。さらに、評価内容を踏まえながら現場の指導者と連携し、評価・OJT を通じて個々のスキルアップとキャリアアップをサポートしていく重要な役割を果たします。
アセッサーになるためには、一般社団法人シルバーサービス振興会が開催するアセッサー講習を受講し、そこで修了証を取得する必要があります。
「アセッサー講習」では何が学べる?
では次に、アセッサー講習の内容をみていきましょう。
講習は「指定テキストによる自主学習」「eラーニング学習」「トライアル評価」で構成されており、所定の講習を受講し、トライアル課題の提出を行い、確認テストに合格することで、「講習修了証」が授与されるという流れ。
インターネットに接続できる一定のパソコン等の環境があれば、ご自宅や介護事業所・施設内などで受けられます。
<主なカリキュラム>
- 介護キャリア段位制度の理解
- アセッサーの役割
- 評価項目の理解
- 評価法方法の理解
- 評価の演習
- 介護キャリア段位制度を活用したOJTの推進
まずは送られてくるテキストをもとに自主学習を行い、「eラーニング学習」で所定の講習を受講。その後の「トライアル評価」では、自施設で働く介護スタッフを対象にトライアル評価を行い、実施したトライアル評価結果と考察結果をレポートにして提出します。
すべてが完了したら、理解度を確認するため、eラーニング上でテストを受験。合格することで「講習修了証」が授与されます。
受講できるのはどんな人?手順や費用は?
アセッサー講習を受講するためには、以下の受講要件を満たす必要があります。
まずはご自身が該当するかどうかを確認しましょう。
<受講要件>以下、1~5のいずれかを満たす方。
1.介護キャリア段位制度レベル4以上の者
2.介護福祉士として3年以上実務に従事した経験があり、かつ、介護福祉士実習指導者講習会を修了した者(介護福祉士養成実習施設実習指導者Ⅱの要件を満たす者)
3.実技試験に係る介護福祉士試験委員の要件に該当している者。具体的には、以下のいずれかに該当する者
①介護福祉士、保健師、助産師又は看護師の資格を得た後10 年以上実務に従事した経験等を有する者
②介護福祉士養成施設等(社会福祉士及び介護福祉士法第39 条第1号から第3号までに規定する学校又は養成施設)において介護の領域の科目を5年以上教授又は指導した経験を有する者
4.介護福祉士、保健師、助産師又は看護師の資格を得た後5年以上実務に従事した経験等を有し、介護技術講習指導者養成講習を修了した者(介護技術講習指導者の指導者の要件を満たす者)
5.サービス提供責任者、主任等(チームやユニットを管理・運営し、部下に対して指導・助言を行う役職に就いている者)又は介護部門のリーダー(課長、係長フロアリーダー等)
申込みは、一般社団法人シルバーサービス振興会のウェブサイトから。受講を希望する本人ではなく、所属する事業所や施設の代表者が手続きを行います。
受講費用は、受講料・テキスト代など合わせ23,230円(税込)です。
なお、アセッサー講習は厚生労働省の「地域医療介護総合確保基金」の対象事業となっているので、自治体によっては補助金が支給されます。自施設が支給対象かどうか、一度確認してみてください。
詳しくは「令和3年度 アセッサー講習のご案内」をチェックしましょう。
アセッサー講習を受けるメリットは?
アセッサー講習を受講する最大のメリットは、評価者として活躍の場が広がることはもちろん、受講を通して根拠に基づいたケアと、プロとして必要な知識やスキルへの理解が深まることです。
人の評価や指導は、自分自身の体験やそのなかで培ってきた知見が基準となり、どうしても「主観」で判断してしまいがち。アセッサー講習での学びは育成・指導時に求められる「客観的視点」の醸成につながり、育成・指導に説得力を持たせることも可能です。
また、介護キャリア段位制度の評価基準はOJTツールとしても活用できるため、あいまいだった指導方法をしっかりと定めることもできるでしょう。
講習受講者アンケートでは、96%の受講者が現場の指導において「講習は有意義」と回答したという結果も残っているようです。
(※一般社団法人シルバーサービス振興会チラシ「令和2年度アセッサー講習受講者募集のご案内」より)
現在、全国で約2万6000人以上のアセッサーが誕生し、介護老人福祉施設や介護老人保健施設、訪問介護、通所介護、特定施設入居者生活介護など、さまざま分野で活躍中。そして、人材育成という介護業界にとっての最重要課題の解決になくてはならない存在として、その役割への期待はますます高まっています。
介護職としての専門性を高めたい人にとって、アセッサー講習受講は、キャリアアップの選択肢のひとつと言えるでしょう。