遠方に住む親が、認知症になったり、病気やケガで自立した生活ができなくなってしまった・・・。そんなとき、近くに住んでいれば頻繁に様子を見に行くことができますが、遠方に住んでいる場合はそうはいきません。直接自分ができない分、さまざまなサービスを活用しながら親の生活を支援するのが遠距離介護です。
遠距離介護の最大のメリットは、お互いに引っ越しをする必要がないため自分たちの生活を大きく変えなくて済むこと。その代わり、頻繁に様子を見に行くことができないことや、交通費や介護費がかさむなどのデメリットがあります。そして厄介なことに、今は新型コロナウイルスという心配ごとも重なっています。
今回は、そうした遠距離介護のデメリットや心配ごとをいかに乗り越えていくかを考えていきます。活用できる工夫やアイデア、新しいサービスをご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
遠距離介護のメリットとデメリット
遠距離介護の最大のメリットは、お互いに大きく生活環境を変えずに介護できることです。また帰省中は介護に集中し、帰省していないときは自分の生活に集中、といった具合に気分を切り替えることができることもメリットのひとつ。
一方デメリットに目を向けると、「何かあったときにすぐに駆けつけられない」という問題があります。予期せぬ急変が起こったとき、自分が駆けつけるまでの間どう対応するかを考えておかなくてはなりません。
また、遠距離介護の方が近距離介護よりも費用がかさみやすいことも問題です。大半を占めるのは帰省にかかる交通費ですが、そのほかにも近くで自分が見られない分介護サービスを頼むことでかさむ介護費や、電話などの通信費、生活環境を整えるためのリフォーム費用など。さらに帰省時に親の負担を増やさないようホテルに泊まる場合の宿泊費や、お世話になっているご近所等への手土産代もばかにできません。
遠距離介護の負担が大きくて続けられなくなれば、親や自分の生活環境を大きく変えなくてはならないことも。長く遠距離介護を続けるためには、できるだけ負担を軽くする工夫が大切です。
遠距離介護をスムーズにするポイント5つ
(1) 周囲に相談し、協力してもらえる体制をつくる
まずは担当ケアマネジャーと信頼関係を築いておくことが重要です。こまめに連絡をとり、連携できる体制を整えておきましょう。またかかりつけ医や親戚、地域の民生委員や近隣住民の方など、周囲の人に協力してもらうことも欠かせません。遠距離介護になることを報告し、緊急時に連絡してほしい電話番号を渡すなど、力を貸してもらえるようお願いしておきましょう。
親の交友関係や参加している集まりなどを知っておくことも有効です。できれば仲の良い友人を教えてもらい一度挨拶をしておくと、時々様子を見に寄ってもらったり、何かあったときの対応を頼めることもあります。
(2) 仕事と介護を両立させる
遠距離介護では、遠方の親を訪ねるために仕事を休まなくてはならないことも増えます。しかし多くの人にとっては、仕事を続けることは自分の生活基盤を維持するために必要なことです。できるだけ仕事は辞めず、続けられる方法を考えましょう。
介護をしながら仕事を続けるためには、職場の理解が欠かせません。早めに上司や周囲に介護をすることになった旨を伝え、介護休暇など活用できる制度を確認しておくことが役立ちます。
(3) 生活環境を整える
親のそばにいつもいられるわけではないため、家の中を片付けて障害物や段差をなくしたり、滑り止めをつけるなど安全に生活できる環境をしっかり整えておきましょう。住宅リフォームをする場合は、介護保険から給付金を受給することができます。そのほかにも手すりやスロープ、歩行器など、介護保険でレンタルできるものも多くあります。ケアマネジャーが詳しい相談に乗ってくれるでしょう。
(4) 交通費はかしこく節約
ビデオ通話などを活用しても、やはり実際に膝をつき合わせないと分からないこともありますし、緊急SOSが来てすぐに行かなくてはならないこともあります。しかし飛行機や新幹線を使って移動するとなると、交通費が負担となります。そこで活用したいのが介護割引です。
「日本航空(JAL)」「全日本空輸(ANA)」「スターフライヤー」「ソラシドエア」の各社では、介護保険証や戸籍などの書類を添えて申し込むことで割引が受けられる制度があります。JRには介護割引の制度はありませんが、男性65歳以上、女性60歳以上で入会できるジパング倶楽部という会員制度があります。年会費はかかりますが20~30%の割引サービスがあるため、こちらを活用するのもおすすめです。
そのほか、もともと料金の安い格安航空会社(LCC)を活用したり、時間がかかってもよいときなら高速バスを選ぶのも節約になります。
(5) 近隣の介護施設の把握
今は自宅でなんとか生活できている高齢者も、体の状態が悪化すれば施設へ入居せざるをえなくなることがあります。前もって近隣にどんな介護施設があるかを調べておくと、いざというときに慌てずに済みます。
また要介護3以上で遠距離介護をしている場合、特別養護老人ホームの入居の優先順位が高めになる傾向もあります。遠距離介護が限界を迎える前に、必要に応じて検討しておくことも役立ちます。
コロナ下での遠距離介護
新型コロナウイルスの感染拡大にともない、遠方からの帰省がしづらくなっています。そんな状況でもできる工夫をいくつかご紹介しましょう。
ひとつめは、ビデオ通話を使ったコミュニケーション。遠隔地から親の様子を知るには、顔を見ながら話をするのが有効です。ただ、パソコンに慣れていない親世代には、パソコンやスマホを使ったビデオ通話はハードルが高く、使いこなせないこともあります。そんなとき検討してみたいのが、「アレクサ」や「OKグーグル」などの呼びかけで操作できる、モニター付きスマートスピーカー=「スマートディスプレイ」を活用する方法。
Wi-Fi環境さえあれば、一台を親の家に置いて自分のスマホから親の様子をいつでも確認できるようにしたり、自宅にも一台置いて家族と気軽にビデオ通話ができる状態にすることが可能です。タッチパネルと音声で直感的に操作できるのも、親世代に抵抗なく使ってもらえる理由。きめ細かいコミュニケーションができ、遠距離介護に大いに役立ちます。
食事面のサポートを、遠方から行うことも可能です。高齢者向け配食サービスはいろいろありますが、既製の味が口に合わず食が進まないと栄養面が心配ですよね。そんなときは、親の状態や好みに合わせたお惣菜を作って冷凍し、クール宅配便で送るという手段があります。手間はかかりますが、元気でいてほしいという愛情を感じてもらえるのではないでしょうか。
また通院や日用品以外の買物の付き添い等は、介護保険適用外の代行サービスを利用するのも手。費用は全額自己負担にはなりますが、帰省にかかる交通費や移動時間のことを考えれば、かえって安くつくケースもありそうです。診察室の中まで付き添い、医師や薬剤師とのコミュニケーションを補助してくれるなど、これまで家族がするべきと考えられていたことを代行してくれ、通院の度に帰省する負担がなくなります。
負担を減らして笑顔を増やそう
遠くに住んでいると目が行き届かないことが多く、歯がゆいですよね。しかし、そもそも親は子供の重荷になることは望んでいないものです。一人でできることには限界があるうえ、今は新型コロナウイルスという別の敵とも戦っていかなくてはなりません。
できないことはできないと認め、親の近くにいる介護のプロとの連携を深めて、チームで対処していくことが大切です。便利な機器やサービスなども駆使して、なるべく負担は少なく笑顔は多い、そんな遠距離介護を目指していきたいですね。