介護のリスクマネジメント、くわしい事例と実践方法

使えるハウツー

利用者と介護士
介護現場において業務を続けていると、あらゆる場面で万が一の事故に繋がりかねないケースに遭遇します。

現場における万が一の事故の対策は、どの介護施設・事業所でも行われていますが、具体的にはどのようにしてイメージしていけばよいのでしょうか。

今回は、介護現場における事故を事前に予測し、事故を未然に防ぐ目的で行われる「リスクマネジメント」について、詳しくお話していきます。

介護業界におけるリスクマネジメントとは?

リスクマネジメントという言葉は、介護業界では「介護中に起こり得る事故をあらかじめ予測しておくことで、可能な限り未然に防ぐこと」を指します。

介護におけるリスクマネジメントは、まずは利用者さんを事故から守ることを前提におこなわれますが、同時に職員を守ることにも繋がっていくので、介護現場における人間すべてが対象になると考えられます。

日頃から、職員間で分担しながら「安全対策委員会」や「リスク対策における会議」などを実施し、委員会や管理委員が中心となって、リスクマネジメントの方向性を職員間で統一していくことが一般的です。

介護リスクマネジメントの事例3パターン

リスクマネジメント
介護現場におけるリスクマネジメントは色々なケースがありますが、ここでは3つのパターンを例に挙げてみましょう。

  1. 帰宅願望が強く、施設外に出ようとする利用者さんに対するリスクマネジメント
  2. 転倒リスクが高いが、自力で行動する利用者さんに対するリスクマネジメント
  3. 自力で服薬される利用者さんに対するリスクマネジメント

帰宅願望が強く、施設外に出ようとする利用者さんに対するリスクマネジメント

状況

施設に入所しているAさん(75歳男性)は、帰宅願望が強く、常に外に出ようとしてしまいます。

ドアや窓は施錠されていますが、職員の出入口の扉から外に出てしまったり、来客時の際に外に出てしまったりするリスクを常に抱えている状態です。

事故予測と具体的な対策

入所施設では様々な状態の利用者さんがいますが、職員がついていない状態で利用者さんが一人で外に出てしまうことは、行方不明や事故に繋がる可能性があるので大変危険です。

まずは、職員が施錠を開けて出入りする際には、必ず施錠をしっかりと確認すること、そして面会時など扉を開ける際には職員が必ず目で確認しておくことなどを提案しました。

そして、Aさんが落ち着くまでは定期的に職員が傍で対応し、時々一緒に散歩に出かけることも取り入れ、帰宅願望が少しでもやわらぎ、気分転換ができるような対策を行いました。
介護士と利用者

転倒リスクが高いが、自力で行動する利用者さんに対するリスクマネジメント

状況

施設に入所しているBさん(85歳女性)は、足腰が弱く、転倒してしまうリスクが非常に高い状態ですが、夜間に居室のベッドからポータブルトイレまで自分で移動しようとします。

「トイレの時にはコールを押して呼んでくださいね」と伝えても、「自分のことは自分でやりたい」という気持ちが強いためか1人で動いてしまい、何度も尻もちをついた状態で発見されています。

事故予測と具体的な対策

「自分の身の回りのことは自分でやりたい」という気持ちは誰しもが持っているものですが、Bさんのような現状を続けてしまうと、いつ大きな事故が起きてしまっても不思議ではありません。

おしりや足の骨折ならまだしも、背中を打って脊髄を損傷したり、頭を打ったりしてしまえば、最悪の事態も考えられます。

そこでBさんが起き上がった状態で反応する位置にセンサーを取り付け、Bさんが立ち上がる前に職員がしっかりと訪室できるように対策を提案しました。

センサーにも赤外線式やマット式など、様々な種類があります。利用者さんの状態によって、適したセンサーを使い分けることが大切になります。

自力で服薬できる利用者さんに対するリスクマネジメント

状況

施設に入所しているCさん(80歳女性)は、食後の服薬を自分で行っていました。

ある日、職員はいつものようにCさんに食後の薬を手渡しておいたのですが、床に薬を落としてしまった瞬間を別の職員が発見しました。

Cさんはそれに気づかずに薬を服用していましたが、偶然にも職員が発見できたことで事なきを得ました。
服薬

事故予測と具体的な対策

服薬管理は、利用者さんによっては、体調に大きく関わるような非常に大切な薬が含まれている場合もあるため、常に気をつけて観察しておくことが重要です。

「しっかりしているし、利用者さんも自分でできると言っているから大丈夫」と油断してしまうと、服薬がきちんと行われていないケースに気付くことができず、利用者さんの体調が悪化してしまう場合もあるため、危険です。

Cさんは自力で服薬を行ってくれますが、必要な薬を必要な数、きちんと服用しているかどうか、飲みこみを終えるまできちんと確認することにしました。

ここまで挙げた、3つの介護リスクマネジメントのパターンに共通して言えるのは、

  • 利用者本人が「大丈夫」と言っていても、状況を見て、介護職員が手を貸すこと
  • リスクを回避するための確認を怠らないこと

上記の2点です。

介護リスクマネジメントの情報の集め方

書類

介護におけるリスクマネジメントには様々なパターンがあり、上記の事例もほんの一部にすぎません。

一般的には、入所施設などの場合は交代勤務であるため、リスクマネジメントの情報収集は「ヒヤリハット(報告書)の閲覧」や「会議での情報交換(口頭での報告)」が主となります。

ヒヤリハット報告書は文面なので、自分の目で具体的に、事故リスクや対策方法について確かめることができます。

ただ、会議での情報交換など、口頭での聞き取りではしっかりと伝わりにくい場合があります。

そのため、できる限り職員ひとりひとりに、ヒヤリハット報告書の書き方を統一させ、具体的な内容を書き残すように決めておくと、正確な情報の共有に役立ちます。

介護リスクマネジメント能力の高め方

的確なリスクマネジメントのためには「職員全員が、同じ対策を実施できる内容を考える」能力が必要です。

その能力を向上させるためには、まず介護現場で様々な事例と向き合い、”この場合にはこうすればいい”という経験値を増やすことが重要です。

また、職員研修に参加する際に「このケースでは、自分の職場でどのように対策できるだろう?」と考え続けることもリスクマネジメント能力の向上に繋がります。

しかし、自分一人だけができるリスクマネジメントでは意味がありません。強引に無茶なリスクマネジメントを実施しても、周りに意図が伝わらず、結果的にリスクの発見ができないこともあるでしょう。

利用者さんだけではなく、介護職員にも性別や体格差、体力の差などがあることに配慮し、すべての職員が間違いなく実行できるリスクマネジメントを、提案するべきです。

介護現場のリスクマネジメントは利用者さんにも職員にも欠かせないもの

介護職員と利用者
介護現場では毎日職員が働き、様々な介護・介助を行っています。

そして、万が一の事故を未然に防ぐために、あらゆる場面を想定したリスクマネジメントが必要です。

適切なリスクマネジメントは、利用者さんの安全を守るだけではなく、事故に対する不安を抱える職員の精神的負担を減らすことができ、結果的には職員の立場を守ることにも繋がっていきます。

利用者さんにも介護職員にも安心して毎日を過ごしてもらうために、介護リスクマネジメントは存在しているのです。

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